勃起機能不全
勃起機能不全(インポテンス)とは、勃起できない状態や、あるいは勃起を持続できない状態を指します。
どんな男性でも勃起できないことがたまにありますが、これは正常なことです。勃起機能不全は、勃起できない状態が頻繁に起こる、あるいは持続する場合をいいます。
勃起機能不全は軽いものから重いものまであります。軽度の勃起機能不全では、完全に勃起することもありますが、挿入できるほどの勃起に達しない場合の方が多くなります。まったく勃起できないこともしばしばあります。重度の勃起機能不全ではめったに勃起できません。
勃起機能不全は年をとるとよくみられるようになりますが、年をとる過程で起こる症状とは限りません。65歳男性の約半数、80歳男性の約4分の3は勃起機能不全です。
原因
勃起に必要な条件は、陰茎に十分な量の血液が流れこみ、なおかつ陰茎から血液が流出する速度が遅くなることです(男性の生殖器系: 男性生殖器の働きを参照)。動脈が狭窄して血流量が減少する障害(アテローム動脈硬化、糖尿病、血栓など)や、血管の手術が原因で勃起機能不全が起こることがあります。また、陰茎の静脈に異常があると血液がすぐに戻ってしまい、血液の流入量が十分でも勃起を持続できないことがあります。
神経の損傷も勃起機能不全の原因になります。陰茎とつながっている神経が損傷すると、勃起機能不全が起こります。こうした神経の損傷は、たとえば手術(最も多いのが前立腺の手術)、脊髄(せきずい)の病気、糖尿病、多発性硬化症、末梢神経の障害、脳卒中、アルコールや薬が原因で起こります。
ときにはホルモンの乱れ(テストステロン値が異常に低くなるなど)が勃起機能不全の原因になります。また、病気、疲労、ストレスなどで気力が失われたときにも、勃起が困難になります。
勃起を妨げる薬は多く、薬の影響は特に高齢者で顕著です。勃起を妨げる薬には、降圧薬、抗うつ薬、ある種の鎮痛薬、シメチジン、ジゴキシン、リチウム、抗精神病薬があります。
うつ、性的能力不安、罪悪感、肉体関係へのおそれ、性的嗜好(せいてきしこう)に対する葛藤といった精神的な要因も、勃起の妨げになります。精神的な原因による障害は若い男性に多くみられます。セックスのパートナーが変わったり、人間関係や仕事に問題があると、新たなストレスになって勃起機能不全の一因になります。
症状
勃起機能不全があると、たいていは性欲が低下しますが、中には正常な性欲を保つ男性もいます。性欲の変化とは関係なく、勃起機能不全だと性交が困難になります。これは、勃起した陰茎が挿入に必要な硬さや長さに達しない、十分に立たない、あるいは勃起を持続できないためです。睡眠中や起床時の勃起がなくなる人もいれば、ときどき強く勃起することはあっても、それ以外のときには勃起しなかったり、勃起を持続できない人もいます。
体内のテストステロン量の減少は、勃起機能不全よりも性的欲求の低下として現れます。テストステロンが減少すると、乳房の肥大(女性化乳房(男性の乳房の病気を参照))、声が高くなる、精巣(睾丸[こうがん])が収縮する、陰毛が減少するといったさまざまな症状が徐々に現れます。また、テストステロンの減少は、骨密度の低下、体力の低下、筋肉量の減少も引き起こします。
診断
勃起機能不全を診断するには、全身の診察と性器の検査を行います。性器に血液を送る血管と神経も検査します。脚の血圧を測定して、陰茎に血液を供給する骨盤内や鼠径部(そけいぶ)の動脈に障害がないか、また直腸を検査して、陰茎に刺激を伝える神経が傷ついていないかを調べます。
採血してテストステロン濃度を測定します。血液検査で、勃起機能不全の原因とみられる病気が見つかることもあります。たとえば、糖尿病は永久的な勃起機能不全を引き起こすことがあり、感染症は一時的な勃起機能不全の原因となりますが、いずれも血液検査で判明する病気です。
動脈または静脈の障害が疑われる場合は、専門的な検査を行います。超音波検査で陰茎の動脈に狭窄や閉塞がないかを調べます。
治療
勃起機能不全があっても、患者本人やパートナーが治療を望まない場合もあります。勃起しなくても互いに触れ合うことで愛情を感じ、満足感を得られる場合もあるからです。
ときには、服用している薬を中止すると勃起が改善されることがあります。
治療にはさまざまな選択肢があります。
薬物療法: 勃起機能不全の治療薬は多く、その大半が陰茎への血流を増やす薬です。内服薬がほとんどですが、局所的に使用するものもあります。その場合は、陰茎に注射するか、挿入して使用します。
シルデナフィル(商品名:バイアグラなど)は勃起機能不全の治療によく使われる薬です。シルデナフィルを内服すると、30?60分以内に勃起の頻度や陰茎の硬さに改善がみられ、その効果は10?30分間持続します。シルデナフィルは性的興奮が起こったときのみ効果があります。副作用には、頭痛、顔面の紅潮、鼻水、胃のむかつき、視覚障害があります。シルデナフィルをニトログリセリンや亜硝酸アミルなどの薬とともに服用すると、重度の低血圧など重篤な副作用が生じるおそれがあります。したがって、ニトログリセリンなどを服用しているときは、シルデナフィルを使ってはいけません。将来はシルデナフィルに類似した他の薬も開発されるとみられています。
シルデナフィルのほか、フェントラミン、ヨヒンビン、テストステロンなどの経口薬も使われます。フェントラミンは、勃起機能不全の治療薬としてときに処方されますが、シルデナフィルほど効果はありません。ヨヒンビンは、精神的要因によって勃起機能不全が生じる場合に用いられます。しかし、副作用(不安、ふるえ、動悸、血圧上昇など)を引き起こすおそれがあり、効果もわずかです。
陰茎に注射あるいは挿入する薬には、陰茎に血液を送る血管を拡張させる作用があります。この種の薬は、内服薬が使えない人に用いられます。
アルプロスタジルは小円柱状の錠剤(挿入剤)で、尿道から陰茎に挿しこんで使用します。単独でも勃起しますが、陰茎を締める補助具など、他の治療と併用するとさらに効果的です。アルプロスタジルは軽い頭痛や陰茎のヒリヒリ感を引き起こし、ときに痛みを伴う勃起が長時間持続することもあります(持続勃起症(陰茎と精巣の病気: 持続勃起症を参照))。このような重い副作用の可能性があるので、初回は医師の観察下で使用します。
陰茎への注射(アルプロスタジル単独、あるいはアルプロスタジル、パパベリン、フェントラミンの組み合わせ)によっても、勃起が促進されます。陰茎注射は勃起に最も効果的な方法ですが、陰茎に注射針を刺すのを嫌がる患者も少なくありません。また、注射で持続勃起症になることがあるほか、注射を何回も繰り返すうちに、組織が瘢痕(はんこん)化してしまう場合があります。
テストステロン濃度が異常に低いため勃起機能不全が生じている場合は、テストステロン補充療法が行われます。他の薬は陰茎への血流量を増やすことで治療を行うのに対し、この治療では不足しているホルモンを外から補います。補充用のテストステロンには、内服用の錠剤、パッチ剤(貼り薬)、局所に塗るクリーム剤、注射などさまざまなタイプがあります。副作用には、肝機能障害、赤血球数の増加、脳卒中リスクの増大、前立腺肥大があります(テストステロン補充療法を参照)。
勃起補助具と陰圧式補助具: 勃起機能不全患者の多くは、陰茎に勃起補助具をつけることで勃起できます。陰圧式補助具と組み合わせることもあります。これらの補助具は勃起機能不全の治療法の中で最も安価で、薬物療法による副作用の心配もありません。ただし、血液が固まるのを防ぐ薬(抗凝固薬)や血栓を防ぐ薬(抗血栓薬)を服用している場合は、補助具の使用によって激しい痛みが生じるおそれがあります。勃起補助具は30分以上装着してはいけません。
勃起補助具(金属、ゴム、皮革で作られたバンドとリング)は、陰茎の根元に取りつけて血液の流出速度を遅くします。医学的に設計された補助具は、医師の処方により薬局で購入できます。アダルトグッズを扱う店などでは、より安価な製品も入手可能です(「コックリング」と呼ばれている)。
勃起機能不全が軽度で、勃起の持続時間が主に問題となっている場合は、勃起補助具単独でも役に立ちますが、陰圧式補助具と組み合わせて使うこともできます。ただし、勃起補助具によって痛みが生じたり、装着していることが射精の妨げになる場合があります。
陰圧式補助具(シリンダーに吸引装置が取りつけられたもの)は、陰茎にかぶせて密着させます。シリンダーの中の空気を吸引すると陰茎に陰圧がかかり、血液が流れこんで勃起します。勃起したら勃起補助具を取りつけ、陰茎から血液が出てしまうのを抑えます。
手術: 勃起機能不全が他の治療で改善されない場合には、人工的に勃起をつくり出す装置(プロステーシス)を陰茎に埋めこむことができます。
プロステーシスにはさまざまな種類があります。陰茎に硬い棒を差しこんで永久的に硬さを保つタイプもあれば、バルーンを陰茎内に設置し、性交の前に小さなポンプ(プロステーシスの一部)でバルーンをふくらませるタイプもあります。プロステーシスの埋めこみ手術には3日間以上の入院が必要で、性交が可能な状態まで回復するのに6週間かかります。
心理療法: 勃起機能不全を引き起こす精神的、感情的要因は、心理療法(行動変容法や感覚集中法(感覚集中法によるセックスセラピーを参照))で改善できます。肉体的な原因が勃起機能不全を引き起こしている場合でも心理療法が効果的なのは、精神的要因が肉体的問題を悪化させていることがよくあるからです。
治療方法は勃起機能不全の精神的原因に基づいて選択されます。たとえば、うつに苦しんでいる患者の勃起機能不全には、心理療法や抗うつ薬が効果的です。勃起機能不全の原因を問わず、心理療法が性的能力についての不安を和らげることもあります。治療の効果が出るまでは長い時間がかかり、多くのセッションが必要になります。心理療法が効果をもたらすには、患者とパートナー双方が前向きに取り組むことが必要です。
勃起機能不全の民間療法もいくつかありますが、効果が証明されているものはありません。


